あらすじ
江南にはびこる巨大な汚職の黒幕を追い詰めるため、任安楽(じんあんらく)と皇太子の韓燁(かんよう)は協力して捜査を進めます。安楽の知略と韓燁の権力、二人の長所を活かした見事な連携で、腐敗した役人たちをじわじわと追い詰めていくのでした。一方、安楽の配下である苑書(えんしょ)と苑琴(えん きん)は、帝家の冤罪を晴らすための重要な手がかりを水面下で捜索します。果たして二人は、悪の根源を断ち切り、江南の民に平穏を取り戻すことができるのか。スリリングな頭脳戦と、深まる二人の絆から目が離せない展開です。
ネタバレ
昨夜の一件を思い返し、韓燁(かんよう)は任安楽(じんあんらく)に素直に謝罪します。それだけでなく、彼女の持つ大きな志を理解し、「かつての韓太祖と帝盛天のように、共に太平の世を築かないか」と、壮大な誘いをかけました。しかし、その言葉に安楽の表情は曇ります。「そんな二人はもう現れない」と、彼女ははっきりと告げました。帝家が韓家に尽くしながらも、その功績を妬まれ滅ぼされた悲劇を、安楽は忘れていなかったのです。
帝家の冤罪を晴らすための証拠探しは、帳簿こそ手詰まりですが、別の線から光が差し込みます。琳琅(りんろう)の報告により、あの蓮の花のペンダントが沐天府で質に入れられていたことが判明。持ち込んだのは「鍾」という姓の人物でした。苑書(えんしょ)と苑琴(えん きん)は早速その男の似顔絵を手に聞き込みに走りますが、成果はなし。偶然出会った溫朔に怪しまれると、苑琴(えん きん)はとっさに「似顔絵は苑書(えんしょ)の兄だ」と嘘をつき、その場を切り抜けました。
一方、江南の水害調査では大きな動きが。沐天府がたった3日で500人もの鉱夫を集めたことに、韓燁(かんよう)は違和感を覚えます。彼らの正体は、口封じされたはずの治水工事の労働者ではないか?韓燁と安楽は、わざと自分たちが水害の真相を追っていることを役人の鐘礼文(しょうれいぶん)に漏らし、罠を仕掛けました。
案の定、焦った鐘礼文(しょうれいぶん)は、山賊に偽装させた役人を送り込み、労働者たちを皆殺しにしようと計画。しかし、深夜、彼らが指定された趙家庄に乗り込むと、そこに労働者の姿はありませんでした。代わりに現れたのは、鎧に身を固め、武器を構えた禁衛軍。あっという間に包囲され、絶体絶命です。冷たい光が走り、弩(いしゆみ)が満月のように引き絞られ、苑書の一声で矢が放たれようとしたその時、役人の長は慌てて馬から降り、「山賊討伐のために潜伏していた」と苦しい言い訳を始めます。
その頃、韓燁は一人で府衙に赴き、鐘礼文を足止めしていました。「山賊は捕らえられた」との知らせが届くと、韓燁は静かにその場を去ります。鐘礼文は帳簿さえ隠せば安泰だと思い込んでいましたが、それこそが安楽と韓燁の狙いでした。彼の隠し場所で人証と物証が揃い、汚職の全貌が明らかに。こうして、緻密に張り巡らされた罠により、鐘礼文をはじめとする数十名の役人が一網打尽となり、江南の巨大汚職事件はついに幕を閉じたのです。
事件解決後、安楽と韓燁は川辺で民が流す祈願灯を眺め、感慨にふけります。韓燁は再び「君と共に歩みたい」と、その真摯な想いを伝えました。素直になれない安楽は憎まれ口を叩きますが、ふとした拍子に転びそうになり、韓燁に腕を支えられます。見つめ合う二人。言葉はなくとも、その間には甘い空気が流れていました。
帰りの馬上で、韓燁は安楽の策略を称賛します。記憶力抜群の溫朔が助けになると見抜き、計画に引き入れたこと。苑琴を使って彼の能力を試したこと。すべては安楽の描いた筋書き通りでした。安楽もそれを否定せず、韓燁の人材を見抜く力を褒め、二人の間には確かな信頼関係が芽生え始めていました。
都では、古夫人(こふじん)が鐘礼文からの連絡が途絶えたことで異変を察知。一方、沐天府では鐘礼文の悪事が明るみに出て、民衆の怒りが爆発していました。韓燁が宿で事件の最終処理を進める中、安楽たちは別の目的を遂行します。苑琴が溫朔の気を引いている隙に、苑書はついに帝家の無念を晴らす鍵となる「八万将士の名簿」を発見するのでした。
汚職の首謀者である鐘礼文には死罪が確定。不正に蓄えられた財産はすべて没収され、民のために使われることになりました。都へ戻る一行を、道端にひざまずいた江南の民が見送ります。彼らが叫ぶのは、称賛の言葉ではなく、ただ「太子千歳」という一声。その声に、韓燁は深く心を打たれます。民への感謝を込めて、韓燁は安楽と共に深々と頭を下げました。
もう韓太祖と帝盛天のような関係は生まれないかもしれない。しかし、自分たちなら、穏やかで平和な世を築くことができる。そう確信した韓燁は、安楽を連れて蒼山へと向かいます。そこは、大靖の初代皇帝・韓子安が眠る陵墓でした。
『安楽伝』第10話の感想
今回のエピソードは、物語が大きく動いた、非常に見応えのある回でした。これまで微妙な距離感を保ってきた任安楽(じんあんらく)と韓燁が、江南の汚職事件という共通の敵を前に、見事な連携プレーを見せてくれたのが印象的です。互いの知略を認め、信頼を深めていく過程は、単なる恋愛模様に留まらない、まさに「最強バディ」の誕生を予感させました。特に、安楽が仕掛けた周到な罠の数々が、後から韓燁の口から語られる構成は鮮やかで、彼女の策略家としての一面が際立っていました。また、民からの心からの感謝を受け、為政者として一回り大きく成長した韓燁の姿には胸が熱くなります。悪を裁く爽快感と、登場人物たちの人間的な成長が丁寧に描かれており、物語の深みを一層増したように感じます。
つづく