寧缺(ねい・けつ)は出発前に桑桑(そうそう)に老筆斎の商売を丁寧に世話するように念を押した。桑桑(そうそう)は別れを惜しみつつも、静かに頷くしかなかった。間もなく、李漁公主府からの招待状が届き、寧缺(ねい・けつ)と桑桑(そうそう)は夕食に招かれる。実は、夏天(か・てん)公主は唐王の仁政に深く感謝しており、特に唐王が荒人(こうじん)討伐に大軍ではなく寧缺(ねい・けつ)率いる書院(しょいん)の弟子たちを選んだことに感銘を受けていた。それは無益な殺戮を避けるためだった。

晩餐の席では、微妙な空気が流れていた。李漁は侍女たちを下がらせ、寧缺(ねい・けつ)と二人きりになると、荒原行きを思い留まるよう説得し始めた。書院(しょいん)の掟を持ち出し、彼に考え直させようとしたのだ。しかし、寧缺(ねい・けつ)の決意は固く、李漁の好意を断るだけでなく、桑桑(そうそう)の面倒を見てくれるよう頼んだ。一方、桑桑(そうそう)は小世子の小蛮(しょうばん)と庭で遊んでいたが、そこに李琿圓が現れ、桑桑(そうそう)に無礼な言葉を浴びせ、乱暴を働こうとした。それを見た寧缺(ねい・けつ)は怒り心頭で、李琿圓の行為を製止し、二度と繰り返さないよう警告した。その後、李明池が現れると、寧缺はさらに厳しく李琿圓を叱りつけるよう要求した。

夜が更け、桑桑(そうそう)は寧缺の激しい気性を心配し、穏やかな暮らしを送るため李漁と結婚してはどうかと提案するが、寧缺はきっぱりと拒絶した。寧缺の心には桑桑(そうそう)しかいない。その深い愛情に桑桑(そうそう)は感動し、胸を締め付けられた。

同じ頃、墨池苑の莫山山(ばく・さんさん)は、寧缺の書に魅せられ、彼に恋心を抱いていた。寧缺が荒原へ向かうと知り、彼女は彼に付いて行くことを決意する。出発前、師である書聖(しょせい)は彼女に貴重な地図を授け、魔宗山門で明字巻天書を探すよう指示した。

荒原への旅立ちを前に、寧缺の荷物には多くの「お守り」が増えていた。顔瑟(がんしつ)大師は天書の秘密を伝授するだけでなく、護符を与え、隆慶に警戒するよう忠告した。師兄師姐たちもそれぞれ護身用の道具を贈り、特に余簾の玉の扳指は窮地を救う切り札となるだろう。陳皮皮(ちんぴぴ)は別れを惜しみ、様々な食べ物や薬を用意し、寧缺の無事を祈った。

また、唐王と夏天(か・てん)的には、永夜の伝説への不安と、夏侯(か・こう)への複雑な感情が語られた。夏天(か・てん)は夏侯(か・こう)のために弁護しようとするが、唐王は夏侯(か・こう)の罪の重さを知りながらも、夏天(か・てん)への深い愛情は変わらず、ただ夏侯(か・こう)の心の魔が再び目覚めないことを願っていた。

こうして、寧缺は皆の心配と祝福を受けながら、荒原へと旅立った。胸には未知の挑戦への不安と、天書を見つけ、自らの実力を証明したいという強い思いを抱いて。この旅でどのような試練や選択に直面し、どのように様々な勢力と渡り合っていくのか、全ては未知数だった。

第30話の感想

第30話は、寧缺の荒原行きを軸に、様々な人間関係とそれぞれの思惑が交錯する、ドラマチックな展開でした。特に印象的なのは、それぞれのキャラクターの心情描写の細やかさです。

桑桑(そうそう)の寧缺への深い愛情と、旅立ちへの不安がひしひしと伝わってきました。李漁の秘めた想い、そして寧缺への複雑な感情も繊細に描かれており、彼女の切ない立場に共感せずにはいられません。一方、莫山山(ばく・さんさん)の寧缺への純粋な憧憬は、新たな恋の始まりを予感させ、今後の展開に期待が高まります。

つづく