古い木の扉がゆっくりと開くと、そこに佇んでいたのは気品漂う男だった。墨を塗ったような眉、星のように輝く瞳、高く通った鼻梁。粗末な麻の服を纏っていても、生まれ持った気高さと上品さを隠すことはできない。その非凡な雰囲気に、麻子(マーズ)と串子(チュアンズ)は思わずたじろぎ、畏敬の念を抱いた。男は清水町を離れることを望まず、玟小六(びんしょうりく)の僕人になることを申し出た。こうして、「葉十七(ようじゅうしち)」という新しい名前が彼に与えられた。
時が静かに流れ、葉十七(ようじゅうしち)の体調は徐々に回復していった。まだ歩く姿は少しよろめいていたが、彼は決して自分を病人とは思わず、進んで家事を引き受け、玟小六(びんしょうりく)の手から食器洗いの仕事まで奪ってしまった。老木(ろうぼく)はそれを心配そうに見つめていた。玟小六(びんしょうりく)の安全を案じると同時に、葉十七(ようじゅうしち)の素性に疑念を抱いていたのだ。老木(ろうぼく)の問いかけに対し、葉十七(ようじゅうしち)は過去の苦難を思い返し、力強い眼差しで言った。「これからは、私はただの葉十七(ようじゅうしち)です。」
大荒の辺境に位置する小さな清水町。目立たない町だが、山々に囲まれた要害の地であり、人、神、妖が共存する安息の地となっていた。この三不管地帯には、辰栄の残党が潜伏しており、中でも軍師の相柳(そうりゅう)は、九つの頭と九つの命を持ち、知勇兼備で有名だった。西炎(せいえん)王は百年に渡り懸賞金をかけているが、未だに捕らえることができていない。
町の子供たちは相柳(そうりゅう)の話を語り継ぎ、それを聞いた阿念(あんねん)たちは興味津々で老桑(ろうそう)に詳しい話を尋ねた。老桑(ろうそう)はゆっくりと語り始めた。相柳(そうりゅう)は指名手配の首位に名を連ねるだけでなく、優れた軍師でもある。彼の指揮の下、辰栄の残党は長きに渡り生き延びることができているのだ。瑲玹(そうげん)もそのことをよく理解しており、密かに策略を巡らせ、この勢力を懐柔、あるいは瓦解させようとしていた。
一方、葉十七(ようじゅうしち)は医館で驚くべき学習能力と勤勉さを発揮していた。水汲みや薪割り、薬草の栽培や薬粉の調合など、何事もきちんとこなし、玟小六(びんしょうりく)を大いに喜ばせた。しかし、麻子(マーズ)と春桃(はるもも)の結婚は結納金のことで行き詰まってしまい、玟小六(びんしょうりく)は窮状を救うため、自ら山へ霊草を採りに行くことにした。老木(ろうぼく)は山の危険、特に九頭妖の相柳(そうりゅう)の噂を心配していたが、玟小六(びんしょうりく)の決意は固かった。そして葉十七(ようじゅうしち)も静かに彼女の後を追った。
山林の中で、玟小六(びんしょうりく)は解優獣の朏朏(みかづき)の習性を利用して罠を仕掛けた。彼女が朏朏(みかづき)と信頼関係を築きつつある時、巨大な雪彫の雪球(ゆきだま)が突然襲ってきた。玟小六(びんしょうりく)はとっさに毒粉を使って危機を脱したが、それが本当の厄介事、九命の相柳(そうりゅう)を呼び寄せてしまうことになった。相柳(そうりゅう)は玟小六(びんしょうりく)を陣営に連れ帰り、スパイではないかと疑い、尋問した。玟小六(びんしょうりく)の記憶は曖昧だったが、清水町への深い愛情は確かだった。そこで相柳(そうりゅう)は、玟小六(びんしょうりく)に自分の専属薬師になることを条件として提示した。玟小六(びんしょうりく)は気が進まなかったが、鞭打たれる苦しみに耐えかね、仕方なく承諾した。ただし、清水町に残ることは譲らなかった。
第3話の感想
第三話は、物語の舞台となる清水町やそこに生きる人々の様子、そして重要な人物である相柳(そうりゅう)の登場など、今後の展開を期待させる要素が盛りだくさんでした。特に印象的だったのは、玟小六と葉十七(ようじゅうしち)の関係性の変化です。当初、身元不明で弱っていた葉十七(ようじゅうしち)を玟小六は医者として献身的に治療し、匿っていました。しかし、葉十七(ようじゅうしち)が回復するにつれ、家事を率先して行うなど、玟小六を支える存在へと変わっていきます。二人の間には、まだ言葉にはされない温かい感情が芽生えているように感じられ、今後の展開が気になります。
また、清水町という場所の特殊性も興味深かったです。人、神、妖が共存する混沌とした世界でありながら、どこか穏やかで、人々は互いに助け合いながら生きています。そんな清水町で、玟小六は医者として人々を癒し、信頼を得ている様子が描かれていました。しかし、同時に、相柳(そうりゅう)の存在が清水町の平和を脅かす可能性も示唆されており、今後の波乱を予感させます。
相柳(そうりゅう)の登場シーンは、まさに圧巻でした。その圧倒的な力と威圧感、そして謎めいた雰囲気は、彼がただの悪役ではないことを感じさせます。玟小六をスパイ容疑で捕らえるシーンは緊迫感があり、二人の今後の関係性がどのように変化していくのか、非常に楽しみです。
つづく