あらすじ

第六十話は、自ら農作業に精を出した嬴夫人えいふじんが病に倒れ、庸芮ようえいが見舞いに訪れる場面から始まります。庸芮ようえいは夫人の生活の面倒を見ると約束します。

一方、五婆ごばは刺繍を売ったお金を羋月ミーユエに渡し、二人は庭の様子や、貞嫂ジェンサオ嬴稷えいしょくを宝のように大切に育てていることなどについて語り合います。また、五婆ごばは市場で偶然黄歇こうあつに会ったことを羋月ミーユエに伝えます。

その頃、朝廷では嬴蕩えいとうの横暴ぶりが露わになっていました。武人を重用し、賢者を軽んじる嬴蕩えいとうの振る舞いに、樗裏疾しょりしつは深く失望します。そして、周王朝の九鼎を持ち上げようとした嬴蕩えいとうは、その重みに耐えきれず命を落としてしまいます。秦国は新たな君主を選ばなければならなくなりました。

羋姝びしゅ公子壮こうしそうを新王に推挙しますが、樗裏疾しょりしつは不安を覚えます。また、魏琰ぎえん魏頤ぎいは王位継承を狙い、魏頤ぎいが懐妊したという嘘をつきます。

最後に、嬴夫人えいふじんが持つ遺詔が不安材料となった羋姝びしゅは、甘茂かんもに命じて北郊行宮ほっこうぎょうきゅうを包囲させます。一方、嬴夫人えいふじん庸芮ようえい羋月ミーユエ母子の密かな連れ戻しを依頼します。

ネタバレ

咸陽かんよう宮を出て質素な暮らしを送る嬴夫人えいふじん。自ら畑仕事をするほど身を粉にしていたが、ついに病に倒れてしまう。見舞いに来た庸芮ようえいに、嬴夫人えいふじん咸陽かんよう宮の羋姝びしゅに弱みを見せたくないと、気丈に振る舞う。庸芮ようえいは彼女の身を案じ、必要なものは全て届けると約束する。

一方、燕の薊。五婆ごばは売った刺繍の収入を羋月ミーユエに渡し、庭の春の兆しを見て「まるで本当の家のようだ」と微笑む。貞嫂ジェンサオ嬴稷えいしょくを実の子のように可愛がっている様子に、羋月ミーユエ貞嫂ジェンサオの気持ちが少しでも安らげばそれで良いと言う。五婆ごば羋月ミーユエの刺繍の腕前を褒め、すぐに薊で評判になると言うが、羋月ミーユエは謙遜する。そんな中、五婆ごばは市場で黄歇こうあつらしき人物を見かけたと言う。羋月ミーユエは喜び勇んで詳しい話を聞くが、五婆ごばは人違いの可能性もあり、声をかける勇気がなかったと話す。

秦では、嬴蕩えいとう甘茂かんも孟賁もうひといった武断派ばかりを重用し、賢臣は宮廷から遠ざけられていた。この状況に、樗裏疾しょりしつは嘆き悲しんでいた。そこにようやく司馬錯しばさく魏冉ぎえんが帰還する。嬴蕩えいとうの東徴の話を聞き、三人は憤り、落胆する。樗裏疾しょりしつ嬴蕩えいとうを幼い頃から見てきただけに、彼がこれほどまでに野蛮で道理をわきまえない人物だったとはと嘆く。

嬴蕩えいとうは九鼎の威容を確かめるため、甘茂かんも、任鄙らと共に周へと向かう。周の人々は嬴蕩えいとうを挑発し、誰も鼎を持ち上げられないと言う。これに奮起した嬴蕩えいとうは、自ら鼎を持ち上げようとする。周囲の喝採の中、嬴蕩えいとうは鼎の下敷きになり、吐血して絶命する。

嬴蕩えいとうの突然の死に、羋姝びしゅは悲しみに暮れる。国は一日たりとも君主不在ではいられない。羋姝びしゅ樗裏疾しょりしつ甘茂かんもに相談し、魏長使ぎちょうしの息子である丹陽君・公子壮こうしそうを新王に立てようと提案する。しかし樗裏疾しょりしつは、公子壮こうしそうは優柔不断で人に流されやすい性格であり、王としてふさわしくないと仮対する。

魏琰ぎえん魏頤ぎい樗裏疾しょりしつに後継者について探りを入れる。魏頤ぎいは既に懐妊していると嘘をつく。樗裏疾しょりしつは驚き、後継者選びは慎重に行わなければならないと考える。

羋姝びしゅ嬴夫人えいふじんが持つ嬴駟えいしの遺詔が不安材料となり、甘茂かんもに命じて北郊の行宮を包囲させる。嬴夫人えいふじん庸芮ようえいに、嬴駟えいしの遺言通り、一刻も早く羋月ミーユエ母子を秦に連れ戻すよう依頼する。

第60話の感想

嬴蕩えいとうの愚行、そしてその結末は、ある意味必然だったと言えるでしょう。武断派を重用し、賢臣を遠ざける政治は、秦の将来を危うくするものでした。九鼎を持ち上げようとする傲慢さ、そしてその結果としての死は、自業自得と言えるかもしれません。彼の死は、羋姝びしゅにとって大きな悲劇ですが、秦の国にとっては新たな転換期となるでしょう。

一方、燕では羋月ミーユエが静かに暮らしています。五婆ごばとの会話、貞嫂ジェンサオとの温かい交流、そして黄歇こうあつとの再会の可能性…彼女の周りには小さな希望の光が灯り始めています。しかし、秦での出来事は、彼女の人生を再び大きく揺るがすことになるでしょう。嬴夫人えいふじん庸芮ようえいに託した密命、そして羋姝びしゅの不安…今後の展開が非常に気になります。

つづく