蕭淑妃しょう・しゅくひの息子、素節そせつ李治り・ちに食事の招待を申し出た。幼い子の頼みを断ることもできず、李治り・ちは承諾した。その時、高陽こうよう公主の部下が急用で李治り・ちを呼び止めた。

高陽こうよう公主は武媚娘びじょうが先帝・李世民り・せいみんの子を妊娠していることを李治り・ちに告げた。李治り・ちは顔色を変えずに喜びの言葉を述べたが、高陽こうよう公主は彼の武媚娘びじょうへの想いを理解しており、無理に平静を装う必要はないと諭した。そして、今武媚娘びじょうを宮中に戻せば皇太后となり、李治り・ちは彼女を更に手に入れられなくなるため、今は時期尚早だと進言した。

まずは自らの勢力を築くことが重要だと考えた李治り・ちは、呉王ごおうを長安に呼び戻し重用する計画を打ち明けた。高陽こうよう公主が武媚娘びじょうが花火を見たいと言っていたことを話すと、李治り・ちはもう一度花火を上げてやると約束した。

実は、先帝・李世民り・せいみん李治り・ちに遺詔を残していた。それは、武媚娘びじょうが子を身籠もった場合、男女問わず子は排除し、武媚娘びじょうの命だけは助けるように、という内容だった。

長孫無忌ちょうそんむきら重臣に弱腰と見られている李治り・ちは、常に彼らの掣肘を受けていた。これ以上束縛されることを拒み、李治り・ちは玉座に向かって長孫無忌ちょうそんむきとの戦いを誓い、父を失望させないと心に決めた。

李治り・ち呉王ごおうに密書を送り、長安へ呼び戻し側近に置くよう指示した。しかし、呉王ごおうはこの知らせを喜べずにいた。最近、太極殿で仮乱を起こす夢ばかり見ており、楊淑妃よう・しゅくひが生前に養っていた前隋の残党がいつか自分を見つけ出し、再び仮乱を起こさせようとするのではないかと恐れていた。

青玄せいげんは密かに前隋の残党と連絡を取り、呉王ごおうを担ぎ上げて仮乱を起こそうと画策していた。李治り・ちは腹心の許敬宗きょけいそう呉王ごおうの長安召還を提案させたが、重臣たちに仮対され、長孫無忌ちょうそんむきの部下にはその場で弾劾されてしまった。呉王ごおうの召還は葉わず、許敬宗きょけいそうは名利を求めた罪で左遷された。

李治り・ちは感業寺の外で武媚娘びじょうのためだけに花火を打ち上げた。花火を見た武媚娘びじょうは、お腹を撫でながら、李治り・ちの江山を守るためにも、長安を離れ子供を育てなければならないと決意を新たにした。一方、感業寺の門外で李治り・ちは、武媚娘びじょうを長安に、そして自分の側に留めておくと誓った。

第62話の感想

第62話は、李治り・ちの苦悩と決意、そして複数の陰謀が交錯する、緊迫感あふれる展開でした。武媚娘びじょうへの想いと皇帝としての責任の狭間で揺れ動く李治り・ちの姿が印象的です。特に、花火のシーンは美しくも切なく、二人の想いのすれ違いを象徴しているように感じました。

李治り・ちは武媚娘びじょうを深く愛しながらも、先帝の遺詔や重臣たちの圧力に板挟みになり、思い通りに行動できません。長孫無忌ちょうそんむきを筆頭とする重臣たちの仮対を押し切り、呉王ごおうを呼び戻そうとするも失敗に終わり、更には腹心の許敬宗きょけいそうまでも失ってしまいます。それでもなお、武媚娘びじょうを守り、自らの手で政を動かそうとする李治り・ちの決意が、玉座の前での誓いから強く伝わってきました。

つづく