李忠り・ちゅうは師である遊大人ゆうだいじんに会い、雉奴ちぬへの愚忠をやめるよう進言を求めた。雉奴ちぬは武媚娘びじょうの言葉しか聞かず、彼女を擁護するばかりで、このままでは国が危ないと訴えた。

一方、武媚娘びじょうは密かに届けられた手紙で、李忠り・ちゅうの謀仮計画を知った。彼女は表情を変えずに、水面下で警戒を強めた。

その夜、九ヶ国からの使者が謁見に訪れ、雉奴ちぬと武媚娘びじょうは共に彼らをもてなした。武媚娘びじょうは密かに瑞安ずいあんに命じ、宴の酒に毒が盛られていないか確認させた。

宴が始まり、一人の宮女が雉奴ちぬに近づき、転んだふりをして毒を雉奴ちぬの杯に注いだ。雉奴ちぬはそれに気づかず、毒入りの酒を飲もうとした瞬間、武媚娘びじょうがそれを阻止し、李忠り・ちゅうにその酒を飲ませた。武媚娘びじょう自ら李忠り・ちゅうの前に杯を置いたため、李忠り・ちゅうは飲むしか無かった。彼は酒に毒が盛られていることを知っていたが、状況から逃れる術はなく、飲み幹した。

李忠り・ちゅうは自分が死ぬと思っていたが、しばらく経っても何も起こらなかった。実は武媚娘びじょう李忠り・ちゅうに酒を渡す際に、既に毒のない酒とすり替えていたのだ。

その後、武媚娘びじょう李忠り・ちゅうと会い、酒がすり替えられていたことを知った李忠り・ちゅうは、感謝するどころか、武媚娘びじょうへの憎しみをさらに深めた。武媚娘びじょうが謀仮の理由を問いただすと、李忠り・ちゅうは激怒し、武媚娘びじょうが実母と継母を殺したことを決して忘れないと叫んだ。

媚娘びじょうは仕方なく、李忠り・ちゅうに太子の位を退くよう要求し、この件を公表しないと約束した。李忠り・ちゅうは太子を辞任することを受け入れざるを得なかったが、怒りは収まらなかった。

許敬宗きょけいそう李義府り・ぎふは皇帝に謁見し、李忠り・ちゅうの謀仮を報告した。雉奴ちぬは最初は信じず、二人を叱責した。

第88話の感想

第88話は、李忠り・ちゅうの苦悩と武媚娘びじょうの冷徹さが際立つエピソードでした。権力争いの渦中で、翻弄される李忠り・ちゅうの姿は悲劇的です。師に助けを求めるも葉わず、謀仮へと追い詰められる様は、彼の置かれた絶望的な状況を如実に表しています。毒酒を飲まされながらも生き延びたのは皮肉な運命であり、武媚娘びじょうの思惑通りに踊らされていることへの無力感をより一層深く感じさせます。

媚娘びじょうは、李忠り・ちゅうの謀仮を未露にしつつも、彼を太子から退かせることで、自らの地位を盤石なものにしようとします。その冷酷なまでの計算高さは、彼女の権力への執著を改めて示すものと言えるでしょう。酒をすり替えることで李忠り・ちゅうの命を救ったにも関わらず、彼からの感謝を得るどころか、更なる憎悪を向けられるという皮肉な展開も、この物語の複雑さを際立たせています。

つづく