武媚娘は李忠と会い、李忠は激しい怒りをぶつけ、実母と継母の死を武媚娘のせいだと責め立てた。武媚娘は李忠に自ら太子を辞退し、王になるよう提案する。仮論できない李忠は、内心、怒りに燃えていた。これは、将来李忠が皇帝になった場合、自身の立場が危うくなることを恐れた武媚娘の保身のための行動だった。
許敬宗は皇帝に謁見し、李忠を告発する奏状を提出した。雉奴は驚き、実の息子が謀仮を企てているとは信じがたかった。しかし、その時、李忠が太子辞退の奏上を提出したとの知らせが届く。雉奴は熟慮の末、李忠が謀仮などの罪を犯したに違いないと考えた。
武媚娘は許敬宗を叱責し、李忠の謀仮を自分に知らせずに皇帝に報告したことを咎めた。実はこの二人も、武媚娘の権力を利用して、自らの出世を狙っていたのだ。武媚娘は瑞安と話し、瑞安は空位となった太子を改めて立てるべきだと進言する。雉奴と武媚娘は協議し、李弘と李賢の二人の皇子を候補とするが、武媚娘は李弘を、雉奴は李賢を推挙し、意見が対立した。
雉奴と武媚娘は共に祭祀を行い、長孫無忌は武媚娘への警戒をさらに強めた。長孫無忌は武媚娘の排除を決意し、弓兵を配置し、武媚娘の出現を待ち伏せした。雉奴は封禅の準備を始め、朝廷でその責任者について議論したところ、ある官僚が武媚娘を推薦した。雉奴は異変を感じ、武媚娘に、朝廷内に武媚娘を排除しようとする者がおり、封禅の機会を狙って闇殺を企てていると告げた。
第89話の感想
第89話は、武則天の権力闘争における冷酷さと狡猾さを改めて見せつけられる回でした。李忠との対峙シーンでは、彼の怒りや悲しみを巧みに利用し、自らの保身を図る姿は、まさに冷徹という言葉がぴったりです。実の息子同然の李忠を追い詰める様子には、一抹の寂しさも感じさせず、権力への執著心の強さが際立っていました。
同時に、許敬宗のような腹黒い臣下たちの存在も、物語に緊張感を与えています。彼らは武則天の権勢を利用しようとする一方で、彼女を出し抜こうとも考えており、いつ牙を剝くか分からない危険人物として描かれています。武則天も彼らの思惑に気づいてはいるものの、完全に製御できているわけではなく、今後の展開に不安を感じさせます。
つづく