あらすじ
第十話は、行止が沈璃を連れて河底の封印を確認する場面が中心となります。沈璃は泳ぎが得意ではないのですが、行止は閉水術を口実に彼女の手首を掴み、無理やり水中に引き込みます。河底では、行止は霊獣を呼び覚まして水質を浄化し、封印の強化に集中します。その真剣な様子に、沈璃は行雲の姿を重ねてしまいますが、二人の身分の違いを自分に言い聞かせます。行止は瘴気を浄化する法器の隠し場所を沈璃に教え、彼女をここに連れてきたのは傷を癒やし、心を落ち著かせるためだと説明します。その後、行雲への想いを募らせた沈璃は人間界への入り口に辿り著きますが、そこで瘴気に襲われ、行止に助けられます。さらに、話の最後には、仙界の拂容が沈璃が魑魅と勇敢に戦った話を聞き、恐れをなして皇祖父に婚約の破棄を願い出る場面が描かれます。
ネタバレ
行止は沈璃を連れ、かつて封印を施した川底へと向かった。沈璃は泳ぎが得意ではないが、行止は構わず彼女を水中に引き込んだ。彼女の手首を掴みながら、閉水術を使うにはこうする必要がある、さもなければ呼吸ができない、と説明する。半信半疑の沈璃だったが、行止が封印を強化することに集中し、手首を掴んでいないにも関わらず、問題なく呼吸ができていることに気づき、彼の言葉が嘘だったと悟る。
行止は川底で番をしている霊獣を呼び覚ました。すると、ほんの少しの時間で、淀んでいた濁った水は澄み渡り、以前とは全く異なる清らかな水になった。沈璃は術を使う行止の真剣な表情に見入る。それは、行雲と瓜二つだった。しかし、彼女は心に言い聞かせる。「人界の行雲はもういない。今、目の前にいるのは、仙界の神君だ」と。
墟天淵の陸と水の瘴気を浄化した後、行止は瘴気を浄化する法器の隠し場所を沈璃に教え、彼女を上古神樹と川底に連れてきた理由を説明した。一つは彼女の傷を癒すため、もう一つは彼女の心を落ち著かせるためだと言う。以前の瘴気の毒が体内に残っており、知らずに暴走してしまう可能性があるらしい。沈璃は少し感動し、真剣な眼差しで行止を見つめるが、心の中では「この人は行雲ではない」と繰り返し自分に言い聞かせた。行止は、今後数日は自分が一人で封印の強化を行うので、沈璃は同行する必要はないと告げる。行止がそう言うのであれば、沈璃も残る理由はない。
部屋に戻った沈璃は、榻に横たわりながら様々な思いを巡らせていた。行雲への想いが募り、ついには下界への入り口へと足を運んでしまう。再び行雲に会いたい一心だった。沈璃は特殊な体質のため、瘴気が濃い場所に来ると動悸が激しくなる。今回も強力な邪気に襲われ、身動きが取れなくなってしまった。必死に意識を保ち、黒い穴に吸い込まれないよう抵抗する。まさに暴走寸前、まばゆい光の中から、行止が彼女に向かって大股で歩いてきた。行止は沈璃の周りの瘴気を払い、彼女の手に武器を戻した。なぜここにいるのかと尋ねる沈璃に、行止は墟天淵の瘴気が強いため、隅々まで様子を見に来ただけだと説明する。沈璃はその言い訳を信じなかった。彼女は再び、行止が休んでいる時に意識が人界に落ちていないかと尋ねる。行止は沈璃が何を聞きたいのか分かっていながら、「もしかしたら…」と曖昧な返事をする。
一方、仙界では拂容が花びらの浮かぶ湯船に浸かり、優雅な時を過ごしていた。その時、部下が慌てて駆け込んできた。霊界の沈璃が魑魅を倒したという報告だった。魑魅に飲み込まれた沈璃が、血まみれで、まるで鬼のような形相で飛び出してきたというのだ。その話を聞いた拂容は、顔面蒼白になった。温室育ちで、戦などしたことのない彼が、そんな獰猛な女性を妻として迎えるなど、想像もできない。恐ろしい。結婚の日が刻一刻と迫り、仙界からは霊界へ行き、沈璃と親睦を深めるようにとの知らせが届く。拂容の恐怖は募り、夢の中でも沈璃に心臓の血を取られる悪夢にうなされる。ついに耐え切れなくなった拂容は、皇祖父のもとへ駆け込み、婚約を破棄してほしいと懇願した。
第10話の感想
第10話では、行止と沈璃の関係性がさらに複雑に描かれ、二人の心の距離が近づいているようでいて、実はまだ遠いことが感じられる切ないエピソードでした。行止は沈璃の手首を掴んで閉水術を使うという嘘をついたり、瘴気を浄化した理由を曖昧にしたりと、沈璃に対して素直になれない様子が見て取れます。これは、彼が神君としての立場や、過去の出来事からくる複雑な感情を抱えているからでしょう。沈璃もまた、行止と行雲を重ね合わせて見てしまい、戸惑いを感じています。行雲への想いが募る一方で、目の前の行止の優しさに触れ、心が揺れ動いている様子が伝わってきました。
特に印象的だったのは、沈璃が瘴気に襲われ、暴走寸前のところで行止が助けに現れるシーンです。まるで沈璃の心の叫びに答えるかのように現れた行止の姿は、二人の強い繋がりを感じさせました。しかし、行止は助けに来た理由を「墟天淵の様子を見に来ただけ」とごまかします。この言葉の裏には、沈璃への深い愛情が隠されているように感じられ、切なさが募ります。
つづく