あらすじ
唐の延和年間、都の長安にある成仏寺で、画師の秦孝白が降魔変の壁画を描くよう公主から依頼を受けていた。秦孝白は、もし絵の仕上げに点睛を施せば、画中の魔王が蘇り人々を殺め始めるだろうと警告を発するが、協律郎の孫望はこれを信じなかった。二人が言い争った後まもなく、孫望は夜中に成仏寺を訪れるが惨殺されてしまう。その遺体の異様な状態に気付いた盧凌風は、捜査を開始する。
目撃者の証言と似顔絵の照合から、盧凌風は次第に真相へと近づき、事件が安西軍の武将、馬雄の家に関係していることを突き止める。それと時を同じくして、ある老人の証言と秦孝白の不可解な行動が、事件の謎をより深めていく。捜査の過程で、盧凌風は犯人と遭遇し負傷してしまう。そこで太子は、蘇無名に都へ入り捜査への協力を命じる。
長安に戻った蘇無名は、東宮と公主の政争に巻き込まれながらも、犠牲者の遺体を検分する。そして、それぞれの死因に共通点があることを発見し、連続殺人事件の可能性に思い至るのだった。
ネタバレ
延和年間、名高い画師・秦孝白は、皇女の依頼で成仏寺にて降魔変の壁画を描いていた。これは天后の冥福を祈るためのものであった。秦孝白の画技は超絶で、絵はまるで生きているかのようだったが、彼は「点睛を終えた途端、画中の魔王が壁から抜け出し、殺戮を始める」と予言していた。協律郎の孫望は秦孝白の言葉を誇張だと捉え、仮論した。口論の末、秦孝白は怒り、「もし魔王が本当に現れたら、最初に孫望を殺すだろう」と言い放った。
ある夜、孫望はこっそり成仏寺に忍び込み壁画を見に行ったが、何者かに殺害された。遺体からは肝臓がなく、目は大きく見開かれ、何か恐ろしいものを見たかのようだった。知らせを受けた盧凌風はすぐさま現場へ急行し、捜査を開始した。検視の結果、遺体から烏膏と判明する口紅が見つかった。盧凌風は目撃者の証言に基づき、裴喜君 に犯人の価顔絵を描かせた。
捜査を進めるうち、盧凌風は孫望が生前、安西軍武将の馬雄の屋敷に馬の治療に通っていたことを知る。馬雄はかつて中宗皇帝に汗血馬を献上したことがあり、多くの馬を所有していた。盧凌風が馬夫人と会話中、陌刀という言葉を口にした。それは孫望の死因となった凶器だった。盧凌風が真相を告げると、馬夫人は気を失った。盧凌風は部下に彼女の化粧台を調べさせたが、烏膏は見つからなかった。
老人の証言に基づき裴喜君 が描いた価顔絵を見て、秦孝白は驚愕した。その絵のタッチが自身の作風に酷価していたからだ。しかし老人は、犯行現場は見ておらず、成仏寺で誰かが絵を描いていると聞いただけであったと証言した。盧凌風は、老人が壁画を見て、犯人の姿を想像したのではないかと推測した。
盧凌風が再び秦孝白の絵を見に行った時、秦孝白はまだ点睛を終えておらず、興奮した様子で皆を追い返した。孫望の死を聞くと、秦孝白はひどく動揺した。盧凌風が持ってきた価顔絵を見て、彼はその絵描きを弟子に取ろうと決めたが、盧凌風は性急すぎると考えた。
捜査中、盧凌風は犯人と遭遇し、激しい戦闘になった。盧凌風と部下の郭荘は共に負傷した。当時、乾陵丞を務め、悠々自適な生活を送っていた蘇無名は、太子からの勅命を白捨人から受け取り、事件解決のため都へ戻るよう命じられた。盧凌風の身を案じた蘇無名は、勅命に背くことができず、すぐに長安へ向かった。
長安に戻った蘇無名は、東宮と皇女の争いに巻き込まれる。太子は彼に雍州司馬の職を与え、一方、皇女は彼を召し出し、必ず無事な盧凌風を連れ戻すよう命じ、大理寺少卿に任命した。蘇無名はすぐに検死房へ行き、全ての被害者の遺体を確認した。彼らの死因はどれも酷価していた。
第1話の感想
「唐朝怪奇譚 第二章 西域篇」の第一話は、まさに掴みはOKと言える、ミステリアスで緊迫感あふれる展開でした。冒頭から秦孝白の不気味な予言と、その言葉通りに起こる殺人事件。まるで呪いのような出来事に、一気に物語の世界観に引き込まれました。
特に印象的だったのは、秦孝白の描く絵の描写です。まるで生きているかのような絵、そして点睛によって魔王が解き放たれるという設定は、この物語の根幹にある怪奇的な要素を強く印象づけます。彼の芸術家としての狂気と、事件との関連性がどう描かれていくのか、非常に楽しみです。
また、盧凌風と蘇無名のバディ感も健在で、彼らの軽快なやり取りがこの重厚な物語に程よいアクセントを加えています。冷静沈著な盧凌風と、飄々とした蘇無名。対照的な二人のコンビネーションは、今後の捜査においても重要な役割を果たしていくことでしょう。
そして、ラストで蘇無名が長安に戻り、皇太子と皇女の権力争いに巻き込まれる展開は、物語に更なる深みを与えています。単純な怪奇事件ではなく、宮廷内の陰謀も絡んでくることで、今後の展開がより一層予測不可能なものとなりました。
つづく