あらすじ

第二十九話は、宮廷内外の複雑な人間関係と権力闘争を描いています。高湛こうたん は蕭喚雲かんうんの変化に失望し、彼女が嫌悪すべき存在になったと感じ、心に深い傷を負いました。この事態を知った太后たいこうは、後々の禍根を断つため、高湛こうたん と蕭喚雲かんうんの排除を決意します。

一方、黄河下流の堤防が決壊し、未曽有の災害が発生しました。朝廷内では対応策を巡り意見が対立しますが、最終的に太后たいこう高湛こうたん に災害復旧の責任を負わせることを提案します。これは高湛こうたん にとって試練の機会となる一方、皇帝は高湛こうたん の身を案じています。

忠叔ちゅうしゅく高湛こうたん に対し、婁氏ろうしには更に深い陰謀があるかもしれないと警告しますが、高湛こうたん婁氏ろうしが自分に危害を加えるとは思っていません。陸貞りくてい高湛こうたん と話し合おうとしますが果たせず、高湛こうたん が出発する際にも会うことができず、失意と悲しみに暮れます。沈碧しんへきは陰で糸を引き、陸貞りくてい丹娘たんじょうの接触を阻止し、物語は更に複雑さを増していきます。

ネタバレ

高湛こうたん は蕭喚雲かんうんに、以前の優しくて気立ての良い彼女とは変わってしまった、と責めた。蕭喚雲かんうんは、変わらなければ生き残れなかった、と仮論し、高湛こうたん に抱きついたが、突き放され、彼女の行いはただただ嫌悪感を催させるだけだと言われてしまう。

この一件を聞いた太后たいこうは激怒し、蕭喚雲かんうんを罵り、二人とも殺してしまおうと考える。高湛こうたん さえいなくなれば、蕭喚雲かんうんのどんな企みも水泡に帰すと確信した。

高湛こうたん は一人酒を呷っていた。忠叔ちゅうしゅくが慰めようとすると、高湛こうたん は宮中には良い人を悪く変えてしまう妖怪でもいるのだろうか、と嘆く。婁氏ろうしも、蕭喚雲かんうんも、そして陸貞りくていまでもが変わってしまった、と。忠叔ちゅうしゅくは、10歳の頃の彼と今の彼が同じだろうか、と問いかける。割れた茶碗は繕えるが、心が壊れてしまってはどうしようもない、と諭した。高湛こうたん忠叔ちゅうしゅくの言葉の意味を理解するが、陸貞りくていも自分も誇り高い人間だから、もう少し様子を見ようと考える。

陸貞りくてい沈碧しんへきの前で宮規を暗誦していた。沈碧しんへきは彼女の変わりように驚く。芳華ほうかから、昨日陸貞りくていは大騒ぎしていたと聞いていたからだ。

黄河下流で堤防が決壊し、民衆は大混乱に陥っていた。張相ちょうそうは自ら視察に向かいたいと申し出るが、太后たいこうはそれを製止し、長広王ちょうこうおうを派遣するよう提案する。長広王ちょうこうおうは陛下の命令に従うと申し出るが、皇帝は平州の情勢が不安定なため、弟である高湛こうたん を失うことを恐れる。太后たいこうの説得により、皇帝はやむを得ず長広王ちょうこうおうを派遣し、天子剣と百名の近衛兵を授ける。

皇帝は太后たいこうに、なぜ朝議で高湛こうたん を推薦したのかと問いただす。太后たいこうは、高湛こうたん にとって良い経験になると説明する。忠叔ちゅうしゅく長広王ちょうこうおうに、なぜ婁氏ろうしの提案を避けなかったのかと尋ねる。高湛こうたん は、婁氏ろうしには何か企みがあり、自分を皇太子の地位から引きずり落とそうとしているのだと考える。忠叔ちゅうしゅくは事態はそれほど単純ではないと考え、婁氏ろうしがまた殺意を抱いているのではないかと心配する。しかし、高湛こうたん は今の婁氏ろうしにはそんなことはできないだろうと高をくくる。

高湛こうたん は司衣司を訪ね、陸貞りくていに会おうとするが、沈碧しんへき陸貞りくていが泣いていて、男は…と愚痴をこぼしていたと嘘をつく。高湛こうたん陸貞りくていがまだ怒っていると思い、引き返す。陸貞りくてい高湛こうたん のことを思い、自分が会いに行かなければ、彼は来てくれないのだろうか、と考える。

沈碧しんへき高湛こうたん を引き止め、被災地では流民が暴徒化しているため気を付けるようにと忠告する。高湛こうたん は感謝しつつも、自分の出発を知っている彼女が、陸貞りくていが知らないはずがない、と悲しむ。沈碧しんへきは侍女に金を与え、丹娘たんじょう陸貞りくていに会わせないように指示し、わざと玲瓏れいろうを倉庫の整理に派遣する。沈碧しんへき陸貞りくていを子時まで引き留め、司衣司で休ませる。丹娘たんじょうは青鏡殿で陸貞りくていを待ち続けるが、彼女は戻ってこない。

陸貞りくてい玲瓏れいろうから長広王ちょうこうおうの出発を知り、急いで端門に向かうが、門は閉まっていた。玉明ぎょくめい長広王ちょうこうおうはまだ遠くへ行っていないので、城壁の上からなら見えるだろうと教える。城壁の上から高湛こうたん を見送っていた蕭喚雲かんうんは、そこに陸貞りくていの姿を見つけ、激怒する。

落胆した陸貞りくていは九鸞釵を見ながら泣き、高湛こうたん は本当に何も言わずに去ってしまったのか、と悲しむ。

第29話の感想

第29話は、登場人物たちのそれぞれの思惑が交錯し、今後の展開がますます気になるエピソードでした。特に印象的なのは、高湛こうたん陸貞りくていのすれ違いです。高湛こうたん は蕭喚雲かんうんの裏切りに傷つき、陸貞りくていにも冷たく当たってしまいます。一方の陸貞りくていは、高湛こうたん の真意を理解できず、彼の態度に深く傷ついています。二人の間の溝は深まるばかりで、見ているこちらももどかしい気持ちになりました。

高湛こうたん忠叔ちゅうしゅくの言葉にもあるように、10歳の頃とは違う、成長した自分自身を受け入れ、複雑な状況に翻弄されながらも、皇太子としての責任を自覚し始めています。黄河の氾濫という緊急事態に際し、太后たいこうの策略によって危険な任務を押し付けられますが、それを受け入れる決断には、彼の成長が見て取れます。

つづく