あらすじ

第五十五話は、婁昭君ろうしょうくん魏王ぎおうの権力争いを中心に、そこから引き起こされる様々な出来事を描いています。高湛こうたん は魏軍に捕らえられ、沈碧しんへき婁昭君ろうしょうくんへの支援を取り付けるため、やむなく魏王ぎおうに身を捧げます。そして高湛こうたん の脱出を図りますが、最後は命を落とします。一方、陸貞りくていは宮中で鳳印を管理し、皇后・蕭喚雲かんうんの懐妊を秘密裏に守ります。斉の国皇帝は仮乱の中で崩御する直前、陸貞りくていと蕭喚雲かんうんに後事を託します。危機に直面した登場人物たちの選択と犠牲、特に高湛こうたん を救うために命を投げ出した沈碧しんへきの姿、そして最後に高湛こうたん が陳の国・文帝のもとへ逃れる様子は、権力闘争における人間の光と影を鮮やかに映し出しています。

ネタバレ

婁昭君ろうしょうくん魏王ぎおうと取引し、献州城陥落後、三千の精兵を借り受ける約束を取り付ける。高湛こうたん は脱出を試みるも魏軍に捕らえられる。一方、蕭喚雲かんうんは急な腹痛に見舞われ、大量出血していることが王璇おうせんによって発見される。太医たいい陸貞りくていに、皇后は安静が必要で、さもなくば流産の危険があると伝える。陸貞りくていは皇後の指示に従い、阮娘げんじょうを通して皇帝に伝え、皇后療養の間、鳳印を預かることになる。

魏の陣営では、捕らえられた高湛こうたん の前に、蒙面の女性が現れ水を与える。その女性はなんと沈碧しんへきだった。彼女は婁昭君ろうしょうくんが魏に援軍を求め、帝都奪還を企てていること、そして自らが魏王ぎおうに差し出されたことを明かす。魏王ぎおうが戻ると、沈碧しんへき高湛こうたん に死んだふりをさせる。魏王ぎおうは斉軍の猛攻に苛立ち、沈碧しんへき高湛こうたん の見張りを厳重にするよう命じ、状況が悪化すれば魏に退却し、高湛こうたん を黄金と交換すると言い放つ。そして、沈碧しんへきに暴行を加えるが、高湛こうたん は何もできない。

瑠璃るり陸貞りくてい高湛こうたん の行方不明を伝える。魏王ぎおうが去った後、沈碧しんへきは一人涙を流す。高湛こうたん は解放、もしくはせめて沈嘉彥しんかげんへの伝言を頼み、どんな要求でも呑むと約束する。沈碧しんへきは正妃の座を要求するが、高湛こうたん は既に陸貞りくていと結婚していることを告げる。沈碧しんへきは彼に交渉の資格はないと言い放つ。

張相ちょうそうは皇帝に高湛こうたん の窮状を報告し、皇帝は沈嘉彥しんかげん高湛こうたん 救出を命じ、身代金として国庫から十万両の黄金を用意させる。さらに、駙馬ふまに五万の羽林軍のうち四万を動員して救出に向かわせるよう指示する。陸貞りくていは冷静を装い、皇帝に心配無用と言い、皇後の流産の危機については伏せる。皇帝は泣けば少しは楽になると言うが、陸貞りくてい高湛こうたん が生きていると信じているため、泣かないと断言する。

婁太後の軍勢が外城に攻め入り、蕭喚雲かんうんは騒ぎで目を覚まし、仮乱軍の攻撃を知る。王璇おうせんは皇帝と皇后に避難を促すが、その最中、王璇おうせんは仮乱軍に殺される。駙馬ふまは駆けつけ皇帝を守るが、蕭喚雲かんうんは皇帝を置いて逃げようとしない。皇帝は母后は自分に危害を加えないと慰めるが、流れ矢に倒れる。息を引き取る間際、皇帝は蕭喚雲かんうんに玉璽を高湛こうたん に渡すよう託し、陸貞りくていには蕭喚雲かんうんと子供を守るよう頼む。

皇帝の死を目の当たりにした蕭喚雲かんうんは悲しみに暮れる。駙馬ふま長公主ちょうこうしゅ府への避難を提案する。そこには千人の羽林軍がおり、しばらく持ちこたえられるという。蕭喚雲かんうんは腹痛が悪化し、駙馬ふまは彼女を抱えて逃げる。息子の亡骸を見た婁昭君ろうしょうくんは復讐を誓う。臘梅ろうばいは孫の存在を思い出させ、婁昭君ろうしょうくんは少しだけ慰められる。

兵士たちが酒を飲んでいる隙に、沈碧しんへきは兵士に変装して高湛こうたん を連れ出すが、すぐに発覚する。追っ手との戦闘中、沈碧しんへきは矢を受けて命を落とし、高湛こうたん は川に飛び込んで逃げる。そして、目を覚ますと、陳国文帝ちんこくぶんていの前にいた。

第55話 感想

怒涛の展開を見せた第55話。息もつかせぬ急転直下の出来事に、感情が揺さぶられっぱなしでした。高湛こうたん 捕縛、蕭喚雲かんうんの流産危機、婁太後の仮乱、そして皇帝の死…。次々と襲いかかる悲劇に、見ているこちらも言葉を失いました。

特に印象的だったのは、沈碧しんへきの複雑な心情。魏王ぎおうへの恨み、高湛こうたん への愛憎入り混じる感情が、彼女の行動に説得力を持たせていました。正妃の座を要求する場面は、彼女の切実さと同時に、どこか痛々しさも感じさせました。身を挺して高湛こうたん を逃がそうとする最期は、彼女の愛の深さを物語っているようでした。

また、陸貞りくていの冷静な判断力と強い精神力も光っていました。皇後の危機、高湛こうたん の行方不明、そして皇帝の死という悲報を受けながらも、彼女は毅然とした態度を崩しませんでした。「泣かない」という彼女の言葉には、高湛こうたん への揺るぎない信頼と、どんな困難にも立ち向かう覚悟が込められているように感じられ、胸を打たれました。

つづく